「晴明、今日は博雅に任せて帰った方が良いと思うの」

「神楽……私は」

「式達も晴明が体調が悪い事を見抜いてる。そんな状態で戦っていたら、怪我をしてしまうかもしれないでしょ?」

そう言われて式達に向ければ、戦いながらも以津真天が静かな目でこちらを見ているのが分かった。見抜かれているというのは本当らしい。隣にいる妖琴師は一切こちらを振り返らない。

「……すまない。今日は先に帰らせて貰うとしよう」

「うん。そうして」

不意に、妖琴師の琴の音が聞こえてくる。音を聴いた混乱した悪鬼は味方を傷つけながら、以津真天が最期のトドメを打っている姿があった。そんな事よりも、先程微かに聞こえた音の方が気になって仕方がない。これではいけないとかぶりを振り、博雅に事情を話にいく。

しかしどうしてか、先に帰って寝所で寝ていたはずなのに、私はいつの間にかあの桜の木の下にいた。まだ昼間なので妖琴師の姿はない。そこにホッとしながら、早く去ろうとするのに足が全く言う事をきかなかった。鉛にでもなったかのようにその場に佇み、ぼんやりと桜の木を見上げる。

「――だから言っただろう?君は来ると」

背後から聞こえてきた馴染みある声に私は振り返らない。否、振り返れなかった。

「そこに跪いて乞うが良い。聴きたいのだろう?私の調べを」